医師一家の生前対策

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円満相続のために

親が経営する医院で事業だけを引き継ぐ場合に注意したいこと

子どもへと医療事業を承継する。ただし、医院など不動産の所有権はそのまま——そういった事業承継も少なくありません。こういった形態をとる場合に起こりがちなトラブルとその対処法にはどのようなものがあるかを説明します。

子どもが事業だけを承継する

 近年の医院やクリニックには利便性が重要。そこで、駅に近い賃貸ビルなどに開業する若い医者が多くなってきました。しかし、すでに長い間医療に携わってきたベテラン医師の場合、住宅街に医院を構え、自宅も同じ建物や別であっても隣接地ということがほとんどです。

 さて、長年そのような形で親が経営してきた医院を、医師になった子や孫が引き継ぐ例も増加しています。事業承継自体は、保健所や税務署など関係各所に開業届けを提出すれば完了です。ただし、医院の経営は子どもに移っても、建物の名義は親のままということは少なくありません。さらに、医院に併設した住宅を二世帯住宅に改築し同居というパターンも考えられるでしょう。

 じつはこういった状態で起こりがちなふたつの問題に注意すれば、親が生きている間に生じる所得税などを節税することが可能なのです。

賃料を経費として計上するには?

 親名義の医院で子が診療を続けるということになれば、血縁関係があるとはいえ不動産に対する賃料が発生します。賃料収入は、引退して年金程度しか収入がなくなってしまう親にとって嬉しいもの。さらに、それは新たに経営する側となる子どもの医師にもメリットがあります。なぜなら、医院の利益を賃料として、所得の少ない親に転化させた方が、全体としての所得税節税につながるからです。所得税は累進課税ですから、収入が少ない方が課税率が低くなります。つまりは、親子合わせた税負担の軽減です。そして、知ってのとおり、所得税は毎年納めなくてはならないもの。少しずつでも毎年節税していけば、最終的な相続の際には多く資産を残すことにつながります。

 また、賃料は経費ですからその点でも税額を抑える効果が出てきます。周知のように、経費とは事業に必要な費用のこと。確定申告の際に計上可能で、賃料以外にも傷んだ内装の補修、医療機器を置くためなど医業に必要な増改築費もこれにあたります。しかし、今回のように同居している親子が賃貸契約を結び、賃料を支払う場合にも同様の処理が行えるのでしょうか。

 先に答えをいってしまうと、もちろん経費計上は可能です。しかし、今回のケースのように同じ建物内や隣接地の2世帯住宅で暮らしている場合には、経費への計上可否に居住環境が関わってきまらないのです。


  • 住居の構造が、玄関が別、かつ建物のなかでも廊下などで繋がっておらず、自由に行き来できない。
  • 電気、ガス、水道についてメーターが世帯別になっており、支払いも別である。また、食材等の生活費も、親子それぞれの世帯で支払いを行っている。
  • 自宅の固定資産税などの税金も各々の世帯で分担し、支払いを行っている。

 これらすべてをクリアしていれば、ひとつ屋根の下で暮らしていても別生計と認められ、確定申告で医院の賃料を経費として計上することが可能です。

増改築の際にも注意が必要

 賃料と合わせて、注意しなくてはならいないのは、医院の改装や増築を行うとき。たとえば、親から医院を引き継ぎ、事業が安定してきた頃に「MRIなどの最新の医療機器を導入した検査室に改修したい」「在宅医療を始めたいから、医療チームが待機できる部屋を増築しよう」など、さまざまな事業展開を考えるようになった場合などです。

 このとき気をつけたいのは、誰が増改築費を負担するのかです。もちろん、建物の所有者である親が負担する場合にはなんの問題もありません。むしろ、そのやり方が相続財産を多く残せるという考え方もできます。財産が現金から医療機器や不動産に変わるだけで、資産評価額は半分以下になり、相続が発生した際の相続税を抑えることができるからです。

 ただし、誰もが親に改修費用を出して貰えるわけではありません。子どもの医師が増改築資金を負担する際、気をつけなくてはならないのは建物の固定資産税が高くなるほどの増改築を行う場合です。税が上がる=建物の資産価値が上昇すること。そこまでいくとその費用分を子どもが親に贈与したとみなされ、贈与税が発生してしまいます。

 そのようなケースでは、建物の登記名義人に実際の費用を支払う子どもを加えれば節税が可能です。部分的な改修ならばともかく、医院部分の増築などの大規模な修繕が発生する際には、名義に関する手続きのことまで注意する必要が出てきます。

 このように、親が存命のうちに発生しうる所得税や贈与税は、比較的簡単な手続きで節税に繋げられるのです。

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