医師一家の生前対策

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円満相続のために

争いを避け、
円満な相続につながる遺言書

「自分が元気なうちに、誰にどの財産を残しておくか明確にしておこう」とは、誰もが考えることでしょう。法的な力を持ってその意志を残された家族に伝えるのが遺言書です。遺言書を作成することで、相続のトラブルを防げることに加え、残された家族への気持ちをはっきりと示すことが可能となります。

争続を避ける遺言書

 故人が生前持っていた財産をどのように遺族に残すかを明確にしなかったために争いになり、親族関係がささくれたってしまうという“争続”が近年話題になっています。これを防ぐためには、遺言書がもっとも効果的とはよく知られていること。ただし、場合によっては遺言書が残っていても、トラブルを避けられないということもあるのです。

 そのようなことにはならないよう、まず遺言書の種類について簡単に確認していきましょう。 まずは、自分でいつでも自由に書くことができる「自筆証書遺言」。もっとも手軽なものですが、不備が発生しやすく争いが発生しやすいタイプの遺言です。ふたつ目の「公正証書遺言」は、公証人という公的資格をもつ第三者が立ち会うため、トラブル発生のリスクが抑えられるもの。三つ目は、これまでのふたつをかけ合わせたような形式の「秘密証書遺言」です。自分で文章を作成し、公証人立ち会いのもと封をします。

遺言書のつくりかた

 それでは、これらの遺言書をつくるためにはどのようにすればよいのでしょうか。前述の通り、自筆証書遺言は「自身で書きたい!」と思ったときに自由に書いてよいもの。元気なうちに書いておけば、自分自身も残される家族も一安心です。ただし、いざ書き始めてみたら、内容が曖昧でかえって遺族を揉めさせてしまいそうな可能性がでてきたり、書きながら考えがまとまらず何度もやり直しが必要になるようであれば、まずは下書きをするのがよいでしょう。

 ただこれは、どの遺言書にもいえることですから気に病む必要はありません。その際には、まずは誰になにを残すかなどを一覧にしたり情報を整理するべきです。ひとつでも相続人が決まっていない遺産があると、結果的に遺産分割協議を行う必要が発生し、遺言書を残した意味がなくなってしまいます。さらに、遺言書の文中における表現の仕方も重要です。「○○に△△を使わせる」や「××に任せる」というような曖昧な表現は使ってはいけません。「○○に△△を相続させる」や「××に□□を遺贈する」という言葉を使用し内容をはっきりさせると、後のトラブル発生の可能性を低くできます。書式は、箇条書きでも、文章でも縦書きでも横書きでも自由ですが、すべて手書きとするのがよいでしょう。自筆証書遺言に限っていうと、パソコンで作成したものが無効になってしまう可能性も考えられます。

 遺言の最後には、必ず年月日と署名、押印を。これは実印でも、認め印でもまったく問題ありません。もし、間違いに気づいた場合にははじめから書き直すのがよいでしょう。

 いつでも自由に作成できる自筆証書遺言に比べ、公正証書遺言は、専門家に協力を仰いで作成するものであるため、思い立ったその日に書きあげて保存するという訳にはいきません。しかし、重要な部分は専門家に任せられるため、遺言書の不備を防ぐことは可能です。自分でやることといえば、自筆証書遺言でも同様のどんな内容にするのかを整理しておくことだけ。公正証書遺言の下書きはパソコンで作成しても問題ありません。この下書きをもとに、公証人という専門家が原案をすりあわせます。調印式といわれる遺言書作成の日に原案を口述すれば、公証人が正式な書類にまとめてくれ、あとは署名・押印するだけです。ただし、このときに証人をふたり連れて行かなくてはならない点が少々面倒かもしれません。また、公正証書遺言には、当然の事ながら依頼料が発生しますし、あわせて、印鑑証明や登記簿など財産を証明するものをあらかじめ用意しておく必要があります。

 秘密遺言証書については、まず自筆で遺言書を記入します。ここまでは、自筆証書遺言と同じ。ただし、遺言書に封をする際には、公正証書遺言作成時のように、公証人と証人が必要になります。封をするときに公証人が内容を確認するため、自筆よりも不備が生じにくいといえます。

遺言書作成の注意点

 手はずは異なるものの、注意しなくてはいけない点は3種類の遺言書とも共通です。次の5つに注意すれば、 “争続”を防ぐよりよい遺言書とすることが可能です。

①必ず紙面で、自筆で所定の書式で残す

 カセットテープやビデオレターという形で、遺言を残そうと考える人もいるかもしれません。しかし、現在の法律では認められていないため無効となるので注意が必要です。上記でお話ししたとおり、遺言書を書いた年月日の記入と署名、押印を忘れずにおこない自分で筆をとって内容をしたためましょう。

②最低ひとりには、遺言のことを伝える

 内容について言及する必要はありません。遺言書が準備してあることを誰かに伝えておくだけでよいのです。家のどこにしまってあるや、公証役場、貸金庫に預けてあると伝えておけば、いざというときスムーズに遺言を執行することができます

③遺言執行者を決める

 遺言の文章のなかに、遺言内容を執行する代理人を示しておきます。専属の弁護士がいたらその人でよいでしょう。代理人ではなく、相続人を任命することも可能です。

④必ずしもすべて遺言書のままになるわけではない

不備なく遺言書を残せたとしても、その内容を必ずすべて実行できるわけではありません。たとえば「長男にすべての財産を相続させる」という内容が残っていたとしても、これは法律に定められた内容に反しているため、相続人全員が同意しなければ無効となってしまいます。

⑤分割に差がある場合は根拠を明確に

いくら、生前自分によくしてくれた人に多く残そうと思っていても、理由が明確になっていないと争いの種になります。実際、相続でもっとも揉めるポイントが、分割に格差があるという点。そのような残し方をする場合には、付言事項で必ず根拠を明確にしましょう。これが “争続”を避ける遺言書を書くために、もっとも大切なポイントです。

相続が原因で家族が不仲になってしまうようでは、亡くなった方も決してうかばれません。とくに、一般に資産が多く相続が複雑になりがちな医師にとってそれは身近な危機といえます。自分の死後も、家族が何不自由なく円満に生活を続けていけるように遺言書は必ず残しましょう。