医師一家の生前対策

HOMEへ戻る
相続破産の危機

医療法人を親族に譲渡する際は税金に注意

 医療法人を経営する医師は「法人持ち分」を後継者に売却もしくは譲渡することで有利な承継につなげることができます。ただし、子や孫といった親族に持ち分を譲り渡す場合、その譲渡額に気をつけないと、譲渡された側が余計に税金を納めることになってしまうこともあります。

医療法人のタイプと立場で変わる売却時の注意点

 医師の中には、自分で医療法人を立ち上げているというケースが少なくありません。そんな場合、現役を引退するときに、後継者に持ち分を売却もしくは贈与しておこうと考えるのは一般的なことです。ここでは、金銭が発生する譲渡の際に起きうる事象とその対処法を説明します。  たとえば、事前に専門業者に法人としての評価額査定を依頼した結果、5000万円と評価されたケース。その医療法人を跡継ぎとなる子どもや孫、要は親族に3000万円で売却し、残りの2000万円は引退後も役職に残り、給料として支払ってもらおうと考えたとします。一見、なにも問題がないようにみえますが、じつはいくつかの注意点をはらんでいるのです。  医療法人には持ち分あり法人と持ち分なし法人の2種類があります。それぞれで譲渡手続きの方法が変わりますが、ここでは一般的な売買譲渡が可能である、持ち分あり法人の場合を想定します。今回のように、本来の譲渡価格の一部を現金一括で貰い、残りは分割し一定期間給与として受け取り続けるという合わせ技については、まったく問題は発生しません。つまり、自由に売買が可能なのです。ただし、出資者が複数人いる場合は少々複雑なことになり、トラブルが発生しやすくなります。

不要な贈与税がかからないように注意

 ご存じの通り、譲渡の際には売却代金を受けとった側は、所得税を支払わなければなりません。医療法人の持ち分についても例外ではありません。納税額は、次の計算式で算出します。

(持分の売却価格−持分の取得価額−譲渡費用)×20.315%

 ここで出てくる、持分の取得価格というのは通常、医療法人を設立したときの価格のこと。一般的には、1000万円ほどという例が多いようです。

 では、今回のように、親族に法人として評価査定額の5分の3をまず現金で貰い、残りは経営を手伝い給料として受け取る場合には、所得税はどのように計算すればよいのでしょうか。じつは、そう難しく考える必要はありません。現金で貰う3000万円分だけの所得税を考えればよいのです。つまりは、売却価格が3000万円、持分取得価額を相場である1000万円と考えたとき、

(3000万円−1000万円)×20.315%=約400万円

を納税し、譲渡した親の手元には2600万円が残ります。

 ちなみに、法人として評価された5000万円から不動産仲介会社に手数料300万円を支払って、第三者に譲った場合

(5000万円−1000万円−300万円)×20.315%=約750万円

 このとき、5000万円の売却価格から、仲介手数料と所得税をひいた3950万円しか手元に残りません。

 手元に残る差額は1350万円となり、税を多く納めるとはいえ5000万円で第三者に譲渡した方が、一見資産が多く残るようにみえます。

 しかし、今回のケースのように評価額の残り分2000万円を、毎月手取り分の給料として50万円ずつ4年間貰い続けるとします。すると、受け取り総額は2400万円。じつは最終的な収入は増えているのです。さらに、買い取る側も新しく開業するよりも初期投資が抑えられ、かつ基盤が調った事業承継という状態からスタートできますから、包括的にみるとメリットは大きいように思われます。しかし、実際はそう単純とは限らないのです。

 なぜなら、このケースでは所得税だけでなく贈与税が発生することもあるからです。親族に医療法人の持ち分を譲渡する場合には、税法上、次の計算式を用いて評価した額での売買が決まっています。

持ち分の総資産価額による評価×50%+持ち分の類似業種比準価額×50%

(純資産額は、医療法人の資産時価−医療法人の負債で算出)

(類似業種比準価額とは、主に医療法人の利益から評価します)

 親族に譲渡しようと考えている医療法人の評価がこの計算式を用いたときに、業者の査定額と同様に5000円となった場合、今回のように3000万円で売却してしまうと、差額の2000万円分を贈与したことになり、その分、贈与を受けた親族が税を納めなくてはいけません。このように、算出金額と差のある金額で売買する場合、節税どころか余計に税金がかかってしまうことは注意が必要です。

 どんな場合でも、医療法人の持ち分を売却する際には、必然的に譲渡所得税がかかってしまいます。今回のケースのように、一部を現金一括で、残りは給料で貰うということは問題ありませんが、譲渡時点で受け取る分をあまりにも安くしてしまうと相手方に無駄な贈与税がかかってしまうのです。「身内だし、事業承継とはいえ開業し始めは物いりだから、現金一括で支払う分は安く設定して、その分自分が手伝った給与として補てんしてもらえばいい」という老婆心はよいですが、結果として後継者の負担を重くしてしまう場合もあります。医療法人の持ち分売買については細心の注意が必要となるのは、このようなことがあるからなのです。

金融のトータルサポートを目指すフィナンシャルデザインはこちら