医師一家の生前対策

はじめに

 自分の子に病院を継いでもらいたい、開業医として築いた資産を円満に相続してほしい――開業医であれば、誰もが望んでいるはずです。

 しかしその切実な願いもむなしく、子どもが相続税の支払いに苦しんだり、病院の跡継ぎや個人の遺産配分をめぐって一族が争いを繰り広げたりするケースが少なくありません。

 開業医の相続は、企業経営者や地主の場合と比較しても、より一層対策が困難です。開業資金などで負債を抱えている場合を除き、一般に開業医は数千万、あるいは億単位の資産をキャッシュで保有していることが多く、相続税はどうしても高額になってしまいます。そして医療法人を設立している場合は、理事長として所有している出資持分の評価額が数億円に膨らんでいることも少なくありません。出資持分は株式と異なり、配当によって余剰金を吐き出すことができないため、あらかじめ評価額を下げておくことができないのです。しかも換金性がないので、後継者に医業承継財産が集中すると、納税資金が不足してしまうリスクが高まります。かといって医業を継がない親族に出資持分を分配しようとしても、相続税が高く、配当もない、換金もできないような資産を欲しがる人はいません。開業医の相続において、出資持分の処理は極めて厄介な問題なのです。

 おまけにクリニックなどの不動産も均等に分割することが困難ですし、医師である子どもが複数いる場合は、跡継ぎ問題も複雑に絡んできます。こうしてキャッシュや出資持分、不動産などの遺産分割でトラブルが発生し、「争族」に発展してしまう例は後を絶ちません。最悪の場合には、せっかく開いた病院が廃業となり、家族の関係が崩壊してしまう危険さえあるのです。

 開業医は日々の診療に忙しく、相続税や医業承継に関する対策は顧問税理士などに頼ってしまいがちです。しかし、医師の相続対策の実務経験を持つ税理士は少なく、効果的な対策を講じられる人は実は多くありません。事実、医療法人や出資持分についてよく知らない顧問税理士のアドバイスを鵜呑みにして、相続対策に失敗しているケースは多々あります。

 では、相続破産・病院消滅の危機を確実に回避し、円満な相続を実現するには、どうすればいいのでしょうか。

 私は、富裕層向けの資産形成コンサルタントとして、これまで多くの開業医に相続対策を指南してきました。単にアドバイスをするだけでなく、日々の医業で忙しい本人に代わって各種の手続きをサポートしたり、問題解決のために適切な専門家を紹介したり、ときには家族の悩み事を聞いたり……などさまざまな方面からバックアップをしながら、二人三脚で問題をクリアしてきました。その経験から確信しているのは、保険による資産額の圧縮、不動産の活用や法人化による資産分割といったテクニックを駆使することで、医師一家の相続トラブルは未然に防げるということです。

 本書では、私が培ってきたノウハウをもとに、相続税対策から、医療法人の承継対策、親族の「争族」、そしてさまざまな専門家の活用法まで、開業医一家の相続に関する対策のすべてを網羅しました。いずれ来る相続に向けて、本書が少しでもお役に立つならば、著者として望外の喜びです。

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