医師一家の生前対策

第3章相続税を圧縮する保険の活用、
円満に医業を承継するM&A……
相続破産を回避する13のテクニック

生命保険の基本パターンは「定期保険」と「終身保険」の2つ

生命保険の基本の型は大きく2つ、定期保険と終身保険があります。

定期保険

 定期保険は、保障期間が60歳とか70歳とか、満「期」を「定」めた保険です。保障期間内に死亡すると保険金が支払われますが、保障期間を一日でも過ぎてしまうと1円も支払われません。

 解約返戻金の返戻率は、一般的には緩やかな山型を描き、頂点は中央より右側になります。商品によっては、加入してすぐにピークが来るものや、鋭角の山型を描くものなどもあります。いずれの場合も保障期間の最後には返戻率はゼロになります。

 こうした特徴から、定期保険のことを「掛け捨て型」と呼んでいます。

終身保険

 終身保険は、「身」が「終」わるまで続く、つまり保障が一生涯続く保険です。どのタイミング、年齢で亡くなっても保険金が支払われます。解約返戻金の返戻率は、契約から時間が経過するほど高くなっていきます。つまり、長生きをすればするほど、返戻金は高額になるのです。

 この特徴から、終身保険のことを「貯蓄型」と呼んでいます。

①定期保険に入るなら期間延長・短縮ができるものを選ぶ

 定期保険であれば、保障期間を延長したり短縮したりできるタイプに入ることをおすすめします。

 40歳のとき、70歳で保障が切れる定期保険に入っていたとします。その人が68歳で末期がんになったとして、普通の定期保険では70歳を超えてから亡くなると、保険金はゼロです。この時点で解約したとしても、返戻率がかなり低くなっていますから、返戻金にもほとんど期待できません。

 一方、期間延長できるタイプの定期保険は、何歳まででも、また何度でも保障期間を延長できます。期間延長を繰り返していけば、71歳で死のうと90歳で死のうと、死亡保険金を受け取ることができます。

 期間変更は契約した40歳時点に遡って行われるため、改めて健康チェックなどの審査をする必要はありません。末期がんであっても脳梗塞であっても、問題なく期間変更できますので安心してください。ただし、満期の2年前まででないと期間変更できないなど、保険会社ごとのルールはあります。

 延長した分、責任準備金(貯蓄)に不足が生じますので、その帳尻を合わせるために保険料を支払わなくてはなりませんが、今まで払ってきた保険料が全部ゼロになってしまうことに比べれば、痛手とはならないでしょう。30年も延長すると、さすがに不足分が高額になってしまうので、5年だけ延長するなど、期間を短くして、追加で納める保険料を少なく抑えるようにします。

 期間延長できる保険にはもう一つ、こんな使い道があります。

 開業したばかりの頃は借金もあり、大きな保険にはなかなか入れません。それで保険料を安く抑えるために、保障期間の短い掛け捨ての保険に入っている人がいます。こういう場合、業績が安定してきてお金に余裕が出てきたタイミングで、保障期間を延長します。

 すると、解約返戻金のピークがずっと後ろにずれることになります。70歳で引退したいと思うなら、返戻率のピークが70歳あたりに来るように期間を延ばすのです。こうしておいて、70歳で引退するときに解約すれば、多くの返戻金を手にすることができます。これを原資として退職金を支払えば、法人の経営を圧迫することはありません。

 保障期間を短縮することもできます。

 期間を短縮すると、先ほどとは逆に責任準備金に余剰が生じます。この差額が戻ってきますので、死去のタイミングが保障期間内にあれば、死亡保険金は入ってきます。

 このように期間を変更できるタイプの保険であれば、病気や病院の経営状態によって臨機応変に対応することができます。

 期間変更のできない保険の場合は、次のようなケースがありました。

 院長先生が病気になり、余命が数年といわれた院長夫人がいました。院長先生はすでに他社で3億円の生命保険に入っていましたが、それは70歳で満期になる掛け捨ての保険でした。院長先生が余命宣告されたのは67歳のときでした。

 院長先生は結局、69歳と3カ月で亡くなったのですが、随分後になってから奥さまは苦しいことを告白するように、こんな話をされました。

 「こんなことをいうと人間性を疑われるかもしれないけれど、70歳までに亡くなってホッとしました」と。「夫に少しでも長く生きていてほしいと思う反面で、70歳を超えて生きてしまったら、保険がゼロになってしまうことが心配でした。もし、保険金が入ってこなかったら、病院を閉じるしかなかっただろうし、自分たちの生活もどうなっていたか分かりません。70歳までに、と願っている自分がとても嫌で、自分自身を呪いました」

 この奥さまのような苦しい想いをさせないためにも、定期保険は期間変更のできるタイプを選んでいただきたいと思います。

②解約返戻金のない終身保険を低い金額で譲渡する

 保険は、法人契約のものを個人に譲渡したり、個人契約のものを法人に譲渡したり、個人Aの契約したものを個人Bに譲渡したりすることができます。

 譲渡する際は、解約返戻金の額で行います。譲渡の時点で解約返戻金が1000万円なら1000万円で買い取ることになります。

 少々特殊な保険商品になりますが、解約返戻金がたまっていかない終身保険というものがあります。この商品は、解約返戻金が常に3万円や5万円といった極めて低い額になっています。ですから、いつでも3万~5万円で権利をやり取りすることができます。

 この商品を使うとどんなことができるでしょうか。

 最初に、被相続人である父が契約者となり、娘を被保険者にした保険を購入します。死亡時に2500万円が支払われる商品で、掛け金が2000万円としましょう。相続税率が40%適用される人の場合、相続財産が2000万円減ったことで、約800万円の節税になります。

 さて、父が亡くなり相続が発生したときに、この商品を孫(娘の子)に相続させます。保険そのものの相続財産評価額は3万~5万円です。すると、被保険者である娘が亡くなったとき、孫のもとに2500万円が入ってきます。2000万円の掛け金に対して2500万円が支払われたのですから、約500万円の得です。

 父の相続で約800万円が節税でき、さらに保険金で約500万円が増えました。トータルすると、約1300万円をほぼ無税で移転できたことになります。

③暦年贈与したお金で子や孫の保険に入り、将来のセーフティーネットにする

 子や孫に暦年贈与の110万円の控除枠内で贈与をし、それを保険料に充てさせます。普通に100万円を贈与すると、無駄に使ってしまうかもしれませんが、保険料なら無駄に消えていくことはありません。

 子や孫にとっては毎回払う保険料が負担になりがちで、しばしば払いきれずに中断してしまうことがありますが、贈与で毎年保険料をもらえれば、ずっと続けることができるでしょう。

 保険に入っておくと万一のときに安心ですし、貯蓄型の保険は長く置いておけば、それだけ解約時の戻りがよくなります。これからは公的年金もアテにならない時代になりますから、子や孫が現役を引退したときに、生活資金としてきっと役に立つはずです。毎年の贈与のお金が、子や孫のセーフティーネットとなって彼らの生活を守ってくれるのです。

 子や孫はあなたの遺してくれたものの大きさに後になってから気づき、感謝の手を合わせるに違いありません。

④金利の高いドル建て生命保険を贈与する

 ③の方法で保険料を贈与し、ドル建ての生命保険に充当する方法も有効です。ドル建ての生命保険は、日本円よりも金利が高く設定されています。為替が変動することによるリスクはありますが、長期運用することでリスクを減らすことができます。為替レートのいいタイミングを待って解約すれば、損をすることはありません。

 ドル建て保険で贈与しておくと、お子さんやお孫さんが海外旅行をしたり海外留学をしたりするときに使うことができて便利です。日本円を外貨に換えるには手数料がかかりますが、最初から外貨で持っておけば少なくて済みます。

 日本経済は今後、先細りが予想されています。人口が減少し経済活動が低下していく一方で国の借金は1000兆円もあり、このままいけば、ほぼ確実にハイパーインフレが起こります。そうなれば日本円の価値は大きく下がるでしょう。このリスクヘッジのためにも、ドルで持っておくのがおすすめです。

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