医師一家の生前対策

第2章莫大な相続税で破産、
子どもの跡継ぎ争いで家族崩壊……
医師一家を襲う悲劇 5つの事例

現時点の相続税を把握することなしに節税はできない

 相続税がいくらになるか、現時点での試算をしておくことも重要です。相続税の目安が分かれば、「今の資産形成で納税資金が調達できそうか」とか「この額では納税が苦しいから節税が必要だ」など次の課題が見えてきます。逆にいえば、相続税額が分からない限り、納税対策も節税対策も進めようがありません。

 相続税が数十億円になる資産家がいますが、この方は「相続税がかかるのは構わない。うちは争族が心配だから、その対策だけ集中してやりたい」と言い、分割や遺言書などの対策に精力を割いています。相続税というのは究極的には支払いさえできればいいので、このような考え方もあっていいと思います。

 ただ、一家の資産を最大限に残したい、相続貧乏にはなりたくないというのであれば、やはり納税対策や節税対策は必要になってきます。対策のしかたによっては、争族の起こりにくい相続になったり、相続税をゼロにできたりするケースも少なくありません。そのためにも、まずは試算です。

 相続税は超過累進課税のため、非課税枠を超えて相続した財産の額が多くなるほど、課税率が高くなります。

 相続税は4つのステップで計算します。

  • ①正味の財産額を出す
  • ②課税財産総額を出す
  • ③法定相続分で按分したとして、相続税の総額を出す
  • ④実際の相続分で、各相続人の負担すべき相続税額を出す

①正味の財産額を出す

 財産のリストアップを用いて、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた額が、「正味の財産額」になります。

 仮に、プラスの財産が10億円、マイナスの財産が3億円とすると、10億円−3億円=7億円が正味の財産額ということになります。

②課税財産総額を出す

 正味の財産額から基礎控除額を差し引いて、残った額が「課税財産総額」です。基礎控除額は、3000万円 +(600万円×法定相続人の数)で求められます。

 相続人を配偶者と子2人と仮定すると、課税財産総額は7億円−〔3000万円+(600万円×3人)=6億5200万円となります。この6億5200万円に対して課税がなされます。この時点でゼロ以下になる場合は税金は発生しません。

③法定相続分で按分したとして、相続税の総額を出す

 法定相続分で按分すると、配偶者が1/2、子Xが1/4、子Yが1/4ですから、それぞれが相続する財産額は、配偶者が3億2600万円、子Xが1億6300万円、子Yが1億6300万円です。

 ここで、それぞれの金額に見合った税率を適用します。配偶者には50%(控除額4200万円)、子Xには40%(控除額1700万円)、子Yには40%(控除額1700万円)が適用されます。すると、

 配偶者……3億2600万円×50%−4200万円=1億2100万円

 子X……1億6300万円×40%−1700万円=4820万円

 子Y……1億6300万円×40%−1700万円=4820万円

 これらを合算した2億1740万円が、「相続税の総額」になります。

 万一、今すぐに相続が発生した場合、これだけの相続税を負担しなければいけませんが、支払いに余裕があるという人は少ないでしょう。むしろ、「そんなに課税されるのか」「思っていたより、ずっと高額だ」と目をむいている方が多いのではないでしょうか。

④実際の相続分で、各相続人の負担すべき相続税額を出す

 実際の相続分が法定相続分通りなら③までで終わりとなりますが、実際の相続分が法定相続分と異なる場合は④に移ります。相続税の総額は変わりませんが、それぞれの負担額が変わってきます。

 実際の相続分が配偶者30%、子Xが50%、子Yが20%だったとします。すると、

配偶者……2億1740万円×30%=6522万円

子X……2億1740万円×50%=1億870万円

子Y……2億1740万円×20%=4348万円

 ただし、配偶者には「配偶者控除」という税額の軽減や、子が未成年の場合は税額軽減があります。それらを差し引いた金額が、実際に納付する相続税額となります。

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