医師一家の生前対策

第2章莫大な相続税で破産、
子どもの跡継ぎ争いで家族崩壊……
医師一家を襲う悲劇 5つの事例

ケース5:何もやってくれない顧問税理士、
     無責任な助言をするアドバイザー

 東京のある医療法人では、3人の理事が3年ごとの輪番制で理事長を務めています。3人とも医学部時代の仲間で、全員70歳を超えています。

 私は3人のうちの1人、Eさんの知人の相続案件に関わらせていただいたことがあり、そのつながりでEさんとも知り合いました。Eさんは、その知人からいろいろと相続・承継の話を聞いたらしく、「自分も心配になってきた」ということで、私に声をかけてくれたのです。

 Eさんは仲間とつくった医療法人のほかに、個人でも医療法人を持っています。こちらの出資持分評価も相当なもので、個人資産と合わせると5億円を超えていました。ただ、個人の医療法人の節税や承継については、Eさん自身の采配でどうとでも対策が取れるので、さほど問題ではありませんでした。

 厄介なのは、仲間と共同出資した医療法人のほうです。出資持分の評価をしてみたところ、9億円近くになっていました。理事1人当たり3億円です。これを何とかしない限り、Eさん個人の資産を圧縮しても根本的な解決になりません。3億円もの資産が乗っかってきたとしたら、相続税は確実に押し上がり、後継者を圧迫してしまいます。

 ほかの理事の方々の個人資産について私は関知していませんが、おそらく置かれている状況はEさんと似たようなものだろうと思われました。全員年齢も年齢ですし、相続まで猶予はありません。

 そこで、その医療法人の顧問税理士に会い、「医療法人の経営状況や資産内容などを踏まえると、現時点での出資持分評価が9億円になること」や「今のままでは5年後にはさらに膨らんで10億円を超えること」などを説明しました。

 顧問税理士は今まで出資持分の評価を一度もしていなかったようで、「そんなになりますか」と他人事のように驚いていました。私が「これでは相続のときに大変になりますよ。今のうちに何か対策を考えてあげてください」とお願いしました。

 すると、その顧問税理士は「何かって、何を?」「私にどうしろというんですか」と不機嫌になりました。私は内心、「この方は自分の仕事だけできればいいのであって、理事の先生方のことは気にかけていないのだな」と残念に思いました。

 顧問税理士が自分から動く気配がないので、私は最も簡単な対策として保険商品を使った節税のしかたをいくつか提案しました。保険を活用した節税というのは、取り立てて特別なテクニックでもないのですが、顧問税理士は「すごい商品があるもんですね。あなた何者ですか?」と言うのです。その反応を見て、私が逆にびっくりしてしまいました。

 保険による節税効果を理解してもらえたと思ったので、「理事の先生方にもこの内容を伝えていただき、みなさんで検討なさってください」と言って引き取ったのですが……。それから数カ月後、「その後、検討はされましたか」と確認の電話を入れてみたところ、その顧問税理士は先生方に相談どころか、提案を受けたことすら伝えていませんでした。私ががっくり肩を落としたのは言うまでもありません。

 その後も何度も医療法人に足を運び、顧問税理士とも少しずつ人間関係をつくって、3人の理事ともお話をさせていただきながら、先日ようやく一つ対策を進めることができました。しかし、これはまだ富士山の1合目です。3人の誰かに相続が起こるXデーまでに、何合目まで行けるのか……冷や冷やすると同時に気の遠くなる話です。


もう一つ、こんなエピソードもあります。


 ある資産家の地主Fさんの相続の相談に乗ることになりました。Fさんは90歳を超えていますが、かくしゃくとして記憶力も判断力もしっかりしています。あるとき、いつものようにお宅に伺い話をしていると、彼女が「うちの空いている土地に福祉施設を建てる計画が進んでいる」と言い出しました。聞けば銀行マンが不動産メーカーを連れてきて、「福祉施設を建てれば地域の貢献になる」「あなたのお孫さんはお医者様になられたのでしょう。いずれ開業なさることを考えても、今のうちから福祉施設を建てておくのは悪いことではないと思いますよ」などと、言葉巧みに営業トークをしてきたようです。その計画がどんなものか私も知っておかなければと思い、Fさんに銀行側が持ってきた提案資料を見せてくださいというと、Fさんは戸棚の引き出しから一枚だけ紙を持ってきました。見ると、まるで素人がパソコンで10分ほどで作ったような、きわめて稚拙な設計図が書かれていました。私が「これだけですか? ほかにも計画書とか設計・建築費の試算表とかもらっていますよね」と聞くと、「もらっていない。これだけです」とのこと。

 新たに物件を建ててそこで事業を始めるのに、提案資料が設計図一枚などあり得ません。しかも、その設計図もあり得ない内容になっていました。Fさんの土地は広大で立地も悪くなく、使い道は他にもいろいろあるはずなのに、あえて福祉施設である理由が明確ではないし、何よりもその広い土地のど真ん中に建てようとしているのです。

 建物はその種類によっては、周辺に建てられる建物を制限してしまうことがあります。たとえば、ごみ処理場を建ててしまったら、その周囲にはアパートやマンションは建てられないでしょう。周辺の環境との相性を考えて、何を建てるか決めなければなりません。

 さらに、土地を担保にして融資をすると話をもちかけ、億単位の借金をさせようとしていたのです。その銀行マンは「早く契約しろ、早くハンコを押せ」と言わんばかりの勢いで、Fさんに迫ったと言います。Fさんが高齢で、認知力が弱いとでも思ったのかもしれません。強引に押し切れば契約させることができると踏んでいたのではないかと私は思います。

 Fさんも地域や孫のためになるなら、施設を建てることはやぶさかではないのですが、ただ、あまりにも話の進め方が強引なので、不安になり私に話してくれたのでした。

「これはどう考えても怪しい」と思い、Fさんにストップをかけて建築の話は白紙に戻したのですが、あのまま契約していたら危ないところでした。最悪は借金が返せず、土地を丸ごと持って行かれていたかもしれません。決めつけるのは良くありませんが、まるでFさんの土地を乗っ取ろうとしているかのような悪質さを感じる事案でした。

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