医師一家の生前対策

第2章莫大な相続税で破産、
子どもの跡継ぎ争いで家族崩壊……
医師一家を襲う悲劇 5つの事例

ケース4:
息子が後継を拒否。宙に浮いた承継問題の行く末は……

 地方都市で内科を開業しているDさんには息子が2人います。長男は東京の医学部に進み、そのまま大学病院に残って勤務医をしています。専門はDさんと同じ内科です。二男は医学部の4年生です。

 Dさんは前々から自身の引退は70歳と決めており、そのつもりで準備を整えていました。70歳を数年後に控え、病院を長男に継がせる時期だと思ったDさんは、正月で家族全員が揃った機会をみて、長男に「そろそろこっちに戻ってきて病院を手伝ってくれないか」と持ちかけました。

 ところが、長男から返ってきた答えは「NO」でした。長男の言い分は、「今では結婚もして、生活の基盤はすでに東京になっている。家族を養っていくのに十分な収入もあるし、何より勤務医は気楽でいい。今さらこっちに戻って、経営の苦労を背負い込みたくない」というものでした。

 てっきり長男が継いでくれるものと思っていたDさんは、「それは話が違うだろう。ゆくゆくはこっちに戻ってくるという約束だったではないか」と言いましたが、「それは昔の話で、今は事情が違う」と言い返されてしまいました。

 それなら二男にと話を向けましたが、二男は二男で「自分も無理だ」と言います。なぜなら、「自分は心臓血管外科の道に進みたい。多くの症例に触れて腕を磨くには、やはり東京でなくてはならないし、将来的には海外留学も考えている。そもそも父の病院は内科で、自分が継ぐには無理がある」というのが理由でした。

 息子は2人とも間違ったことは言っていません。むしろ自分の生き方や使命というものを真面目に考えています。Dさんはそういう息子たちを頼もしく思い、また、その意思を尊重してあげたい気持ちもありました。

 突然、後継者のあてを失ってしまったDさんは、自分のリタイアどころではなくなってしまい、病院の存続に頭を抱えてしまいました。

 その後、私はDさんから相談を受け、「息子さんに継がせることは諦めて、誰か病院を欲しいという人に譲る方向に切り換えませんか」と提案しました。Dさん自身もそれは考えていて、知人の医師などに声をかけたりはしていたのですが、やはり一個人の情報網では限界があり、適当な候補者を見つけることができませんでした。

 そこで、私もお手伝いをして各方面の協力を得ながら情報を集めました。すると、幸いなことに、地元出身の30代の若い医師が、東京から地元に帰って開業したいと希望していることが分かりました。しかも診療科目も内科と理想的でした。

 さっそくM&Aの専門家を紹介し、Bさんの側に立って具体的な譲渡の話し合いを進めてもらっているところです。両者とも前向きな交渉ができており、近々M&Aが成立する見込みです。

 70歳引退という当初の予定よりは少し遅れてしまいますが、Dさんのハッピーリタイアはもう間もなくです。

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