医師一家の生前対策

第2章莫大な相続税で破産、
子どもの跡継ぎ争いで家族崩壊……
医師一家を襲う悲劇 5つの事例

出資持分の承継には3つの方法がある

 資持分の承継のしかたには、

  • ①相続による承継
  • ②生前贈与による承継
  • ③売買による承継

 の3つがあります。

 それぞれに長所と短所があり、どれを選んだから正解で、どれを選んだから間違いというものではありません。しかし、選択する方法によって支払う税金額は変わってきます。また、承継する相手や承継したい時期などによっても、選択すべき方法は異なります。

 承継計画や資産状況、後継者との関係、周囲の環境などさまざまな要素を考慮して、〝わが家に合ったベストな一つ〟を選び取っていくことが肝要です。

①相続による承継

 現理事長が亡くなった際に、出資持分を相続財産として後継者に承継する方法です。

 出資持分の評価額によっては、相続税が課税される可能性があります。出資持分の評価を下げるなどして節税を図ったり、後継者が納税資金に困らないように準備をしたりといった対策を、理事長の生前にしておく必要があります。

 出資持分は後継者に100%を持たせるのが理想ですが、相続による承継ではBさんの例のように分散してしまう可能性もゼロではありません。

 ですから、相続で承継をしようとする際には、①事前に後継者を決定しておく、②確実に後継者に出資持分がいくように対策をしておく、といったことが必要です。②の対策としては、生前にトラブルが起きないように言い含めておくとか、遺言書に書いておくなどの方法があります。

②生前贈与による承継

 現理事長が生前に自分の意思で、贈与によって出資持分を後継者に承継する方法です。

 生前贈与による承継では、現理事長の思う相手に、贈与したい分だけ出資持分を移転させることができます。つまり、後継者に100%の出資持分を引き継がせることが可能です。

 贈与をする際には、法人の利益を圧縮するなどして持分評価を下げてから後継者に贈与すると、贈与税を節約できます。

 毎年少しずつ後継者候補の息子に持分を贈与している人がいます。これは2つのメリットを狙っています。1つは、コツコツと贈与したほうが税負担を抑えられることで、贈与の暦年課税(暦年贈与)を使うと毎年110万円までは非課税で贈与できます。

 もう1つは、少しずつ持分が増えていくことで、息子さんの「後継者としての自覚」が促されていくことです。贈与するにも時間がかかりますが、これはとても賢いやり方です。

 ある方は、毎年息子さんの誕生日に贈与を行うのですが、そのとき必ず息子本人に「将来どういう医者になってほしいか」や「病院をどうしていってほしいか」などを伝えています。また、息子のほうも「自分はこういう医者になりたい」「後を継いだら、こういうこともやってみたい」などのビジョンを話したり、父の意見に対して「ここは賛成だけれど、この点については納得がいかない」などと意見を返したりしています。

 そういう話し合いの場が持てることも、贈与のとても素晴らしい使い方といえます。

 ただし、一度贈与してしまうと撤回はできないので、その点には注意しなくてはなりません。たとえば、長男を後継者にするつもりで持分を贈与してきたものの、よくよく考えると二男に継がせたいとなったとき、長男に贈与した持分をなかったことにはできないため、持分は分散してしまうことになります。生前贈与は後継者を確定してから行う必要があるのです。

③売買による承継

 現理事長が所有する持分を、後継者が買い取ることで承継する方法です。

 現理事長と後継者の間で合意があれば、いつでも売買はできます。後継者に100%の持分を買い取らせれば分散もなく、払戻請求の危険もありません。

 ただし、持分を買い取るためのキャッシュを用意しなければならない点が課題になります。持分評価が高いほど、後継者がそれだけ多くのキャッシュを用意する必要があります。

 別の言い方をすると、買い取れるだけの資金力のある後継者がいるのであれば、出資持分対策は必要ないかもしれません。それならそれで、争族対策や相続税対策に力を入れていくといいでしょう。

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